"何かあった時"のレベルが低すぎる
500円玉貯金をしている。
元々貯金をするという習慣がほぼなかった私にとって500円玉貯金は大きなチャレンジであり、彼氏も「いいじゃん!何かあった時に備えがないと困るもんね」と言っていた。
1ヶ月が経った。貯金箱には5〜6枚ほどが入っていた。いい調子だな〜と調子に乗り、更に1枚入れようと財布を開けて気がついた。
財布に札がない。というか300円くらいしかない。
そうだ、朝にコンビニでメルカリの支払いをした時に財布が空になったんだった。銀行に寄って下ろすつもりが、うっかり忘れて帰ってきてしまった。今は夜で、銀行はもう閉まっている。2〜3日分の食材を買い出しに行こうと思っていたのに、300円では2人分のカップ麺すら危うい。
貯金しててよかったな〜!
貯金箱を開けようとすると、彼氏に凄い勢いで止められた
「何!?何してんの!?」
「貯金箱開けるんだよ」
「まだ1ヶ月じゃん!もう開けちゃうの?!」
「だって今お財布にお金ないから」
「こういうのはもっと貯めておいて何かあった時に開けるんじゃないの?」
「今がまさに何かあった時だよ。これを使えば今日の買い物が…」
「貯金に手をつけるのが早すぎない?」
「だって今からコンビニで下ろしたら手数料がかかっちゃうし。明日また銀行行って、使った分を貯金箱に補充すれば同じじゃん」
「待って!なんか僕の知ってる貯金と違う!とにかくそれ開けないで!今日は僕のお財布でお買い物していいから!ね!?」
あまりの剣幕だったので貯金箱は開けず、彼氏の財布で買い物して次の日に返しました
私の貯金が少なくて、彼氏の貯金が多い理由が
なんとなくわかった気がする。
茶葉に疎い人
「プーアール茶ってあるじゃん」
「ぷ………何?」
「プーアール茶」
「ぷーあーるちゃ?」
「茶ね、茶。そういうお茶があるんだよ。あー、ほら、ルイボスティー的な」
「ディアゴスティーニ?」
つい2日前の会話だ。ひどい。ひどすぎる。ルイボスティーに至ってはスティーしか合っていない。というかよくそこだけが一致する単語を出してきたなと感心した。
私の彼氏は茶葉に疎い。
茶葉だけではない。ファッションブランドにもとことん疎い。ちゃんと企業名が言えるのはユニクロと無印良品だけなのではないか。
ディオールがわからない。POLAとPAUL&JOEの違いがわかっていない。RMKだの、エスティーローダーだの、イヴ・サンローランだのは当然わからない。母親の誕生日にあげるのだという財布を一緒に選びに行った時には、シャネルの財布をルイ・ヴィトンだと言っていた。おばか。
付き合った当初、記念日のプレゼントがスリップオン製品一択なのをずっと不思議に思っていたが、東急ハンズで買っていると聞いて心の中で大きく頷いた。そりゃあ、東急ハンズで革製品を買えばスリップオンになるだろう。
私が使っている化粧品のブランドについては少しだけ知っている。しかし発音は慣れていない。「せっきせい」が雪肌精だとわかっていないからである。
私が「せっきせい」と言うから、「せっきせい」と言っているだけなのだ。以前、ドンキホーテに行ったら、「めいちゃんが使ってるやつあるよ!」と全然違うやつを指差していた(パッケージが少し似ていた)。
KOSEの雪肌精シリーズのシュープレムだと言ったところで、シュークリームと間違われるのがオチである。
うちの彼氏はこれぐらいの世界で生きている。
しかし全く何もわからないということでもない。最近は「ふぃんと」を覚えたようである。私のお気に入りのブランドだ。何度も服を買ってくれているから、否が応でも覚えたんだろう。あそこの服、まあまあ高いし。
後は、覚束ない発音で「じるすちゅあーと」「じぇらぴけ」「さまんさ」と言っている。すべて私の御用達の店だ。次に覚えるのはきっと「めぞんどふるーる」だろう。
とまあ、私の彼氏はこれぐらいの世界で生きている。
でも、彼は私にはさっぱりわからないとても広い世界にも生きている。
プログラムを組み、回路図を書き、ロボットを組み立て、魔術書にあるような数式を解いている。私には一生わからない世界だ。この間はトートロジーがどうとか話していた。トートロジー。説明を求めたがよくわからなかった。とりあえず、「絶対に揺らがない事象をトートロジーっていう」らしい。
私はきっとこれからも、トートロジーを「トートロジー」としか認識できないんだろう。彼が雪肌精を「せっきせい」としか認識しないように。
そんな別世界に生きている彼と、
私はきっと結婚する。
わからない世界同士を合わせて
私たちは未来をつくる。
ついでに、彼は栄NOVAの5階をひどく恐れている。そこには大手ロリータブランドの店舗があるからだ。
さすがに一揃いでウン十万もする服を他人に買わせるほど、面の皮の厚い女ではない。非常に心外なのである。
オナ禁で彼女を作る計画に加担した話
あれはいつの冬だったろうか
時刻は深夜3時を少し過ぎた頃
散らかった部屋、冷えたカップ麺の汁
炬燵には男と女がひとりずつ
何をするでもなく時間が過ぎていく
そんな時のことだったと思う
「俺今オナ禁してるじゃん?」
心底どうでもいいと思った
なんで知ってる前提なんだ
私は一人楽しくどうぶつの森を遊んでいたのにスローライフの邪魔をしないでほしい
私には大変仲の良い男友達がいる
在籍中の大学の同期であり、週に2回は同じ釜の飯を食う。そして好きなセクシー女優の話に花を咲かせる仲である
我々が月9の主人公であるなら、就活→どちらかの内定を機にいさかいが生じる→失って初めてお互いの大切さに気づく→好き♡に発展するところなのだが、私も男友達も月曜日から日曜日まで24時間ダラッと生きているので特にそういうことはなかった
オナ禁に話を戻そう。なんとなく今オナ禁ってヒカキンみたいだなと思ったけどそれもどうでもいい。とりあえず話を戻します。
「いいじゃん別にオナ禁しなくても。まさかお前だけ明日検尿なのか?」
「再検査じゃないから。俺は今年こそモテたいんだよ」
「知らねえよ。だいたい前にも何度かオナ禁してたけど彼女できてないじゃん」
「違うんだって!今回はマジ!今年の俺はオナ禁で彼女を作る!!」
見たことないぐらいドヤ顔だった
もともと普段からイラっとする顔立ちをしているくせになんでそんな顔までできるんだよって思った
男友達曰く"オナ禁をするとフェロモンが出てモテる"というのは男性諸君の間では常識も常識なんだそうで、モテる為にオナ禁をする男性は少なくないらしい
「高校生の時にやった時もちょっとは効果あったと思うんだよね。やり始めて1週間ぐらいで生徒会の子から"最近なんか色気出てきたね?って言われた」
「いいじゃん」
「そいつ男だったけど」
ダメなんじゃん???
「まあやりたきゃやれば?誰にも実害ないし。でも夢精して終わると思うよ」
「俺は一度も夢精したことがない!」
これまたクソほどどうでもいいな
なんでそんなに胸を張って言えるんだろう
本当にオナ禁の意思があるならその右手に持っているAndroidで貴様のDMM.R-18のアカウントにログインし、月額見放題9800円コースを今すぐこの場で解約しろ
そう告げると「DMM.R-18はFANZAに名称が変わりました!!!!」と言われた
マジで?!!?!?!?!?
「あっほんとだFANZAに変わりますってメール来てる」
「なんかショックじゃない?」
「うん…ショック…」
「ショックだよね…」
「さよならDMM.R-18………」
「寂しいけどちょうどいい機会だし解約する。それほど俺は今度こそ本当にオナ禁に真剣なんだ。"マジェスティック・オナ禁タイマー"ってアプリ入れてるし!」
………
なんだそれ、めちゃくちゃ気になる
死ぬほどどうでもよかった男友達のオナ禁事情だったが、そんな面白そうなアプリを使っているなら話は別だ、DMM.R18の追悼も後回しだ
なんというか、主にTwitterでバズりそうな爆烈エピソードになりそうな予感がするから
見せてよと頼むとウキウキで(なんでだよ)アプリ画面を見せてくれた。私もなんとなくウキウキしながら画面を覗き込んだ
(※当時の画像は残っていないので、公式からお借りしています)
爆笑した、シュールすぎだろ
何がどうマジェスティックだというんだ
いや私はマジェスティックの意味をよく知らないんだけどさ
やたらと爆笑している私を見て、男友達は無駄に誇らしげだった。きっと自分のマジェスティック・オナ禁タイマーを褒められて嬉しかったんだと思う
この時点で二人ともまあまあ酔っていた
マジェスティック・オナ禁タイマーは、ただ日数をカウントするだけの生易しいオナ禁お助けアプリではない!
なんとチャット機能がついており、オナ禁を共にする戦友たちと励ましあったりできるのだ
3日間、1週間、1ヶ月と、耐えられた日数によってアカウントの横に勲章がつく仕組みになっているらしく、チャットルームの中での力関係はこれによって決まるらしい。オナ禁にカースト制度が存在するのか。
中には1ヶ月間耐え切った猛者だけが参加することのできる、VIPなチャットルームもあった。「この人たち1ヶ月も耐えたんだよ!すごくない!?」と男友達は興奮して尊敬の念すら抱いていた
私はもう笑いが止まらなかった。誰なんだよこんなアプリ考えたやつ
更に「マジェスティック・オナ禁タイマー」は、毎日一言ずつオナ禁を継続するための励ましのメッセージのようなものも表示されるらしい。そのメッセージが見たくて明日も頑張ろうという気になれるのだと男友達は言う。率直に言ってなんなんだよ
ちなみに3日目の今日はどんなメッセージだったのか、と聞くと
「"日本人の3割に属した"だったよ」
本当になんなんだよ
(訂:調べたところ、正式名称はマジェスティックオナ禁タイマーではなく、オナ禁カウンターでした。記事では当時の会話をそのまま使っています)
数日後、「そういえばどうなの?続いてる?」と聞くと
「最初キツかったけど逆に平気になってきた。でもたまにムラっとする瞬間がある」との返答があった。
この時にはすでに私も彼のオナ禁に協力したくなってきていた、面白そうだし
とりあえず「ムラっときた時にどう抑えればいいのか」について小一時間話し合った結果、
Googleで「男 汚い 尻」で検索してヒットした画像を見て気持ちを静めるという結論に落ち着いた
これは本当に効果があるんですけど、「男 汚い 尻」で検索してヒットする画像、本当に一瞬見るだけで性欲が根こそぎ消え去るのでオナ禁したい人は是非試してみてください。本当に男の汚い尻の写真が大量にヒットします
あとこれは本当に不思議な現象なんですが、「男 汚い 尻」に更に汚い単語を足すと(例:男 汚い 尻 ブツブツ ニキビ うんこなど)
なぜか男の汚い尻の写真は減り、エッチでかわいい女の写真が多くヒットするようになってしまうんですよ。インターネットって不思議ですね。
1番ベストなのは「男 汚い 尻」です!
この結論が出た後、男友達は「ムラっときた瞬間に男の汚い尻を見るのを続けていたら、男の汚い尻にムラっとする人間になってしまうかもしれない………」とずっと気にしていた
そうなったらメッチャ面白いじゃんと思った
オナ禁開始から27日後、男友達は人生初の夢精によって強制的にフィナーレを迎えた。少し寂しそうな顔をしていた
かなり頑張ったと本人は言っていたが、特にフェロモンも出てなかったし、イケメンにもなってなかった。当然彼女もできてなかった
男友達は「今回はダメだったけど、また挑戦するよ!」と笑っていた
やっぱりどうでもいいし、むかつく顔だなと思った
でも諦めずに今後もまたやってほしいなと思う。私が面白いから
それでは。